インボイス制度が始まり、会計処理が楽だと聞いた簡易課税制度の適用を受けたいけど… 簡易課税制度ってまず何ですか?
税理士が解説! 簡易課税制度(2割特例)とは
2023.10.29

 簡易課税制度は消費税の計算にあたっての集計が簡易になる制度です。似たような制度で2割特例も新たに制度に加わりました。

 どう集計が簡易になるのか、適用を受けるメリット・デメリットは何なのか、そして2割特例についてまで詳しく説明します。

 読み終わったら、簡易課税制度と2割特例の全貌が理解できるはずです。







1 簡易課税制度

 簡易課税制度は、その名のとおり消費税の計算が簡易になる制度です。簡易課税制度の内容、その適用要件と適用方法、そして会計処理まで見ていきましょう。


1-1 簡易課税制度とは

 簡易課税制度は、図1-1のように、「課税売上※1に含まれる消費税」のうち一定割合を「課税仕入※2に含まれる消費税」とみなして計算できるため、課税売上と課税仕入の両方を集計し計算する本則課税制度(原則)に比べ、事務負担を大幅に減らすことができます。インボイス制度の導入により、課税仕入の集計がさらに複雑となるため、その集計の必要がない簡易課税制度は注目されています。

※1 対価性のある収入(受取利息など非課税売上を除く)

※2 対価性のある仕入・経費・固定資産の取得(保険料などの非課税仕入を除く)

本則課税制度と簡易課税制度の比較

図1-1 本則課税制度と簡易課税制度の比較

 なお、「課税仕入に含まれる消費税」の計算に使う一定割合は図1-2のとおり事業区分によって決まります。建設業は70%になります。

事業区分ごとのみなし仕入率

図1-2 事業区分ごとのみなし仕入率(国税庁HPより引用)

 図1-1のケースでは、原則の本則課税制度より消費税の納税が少なくなっています。次の条件に当てはまる場合は、簡易課税制度が有利となることが多いです。簡易課税制度を適用しましょう。

  • 同業他社より原価率が低い
  • 固定費に含まれる人件費が多い

 正確に有利不利の判定をしたい場合は専門家である税理士に依頼しましょう。


1-2 適用要件

 次のメリットがある簡易課税制度ですが適用要件があります。

  • 事務負担の軽減
  • みなし仕入率によっては納税有利

 適用要件は次のとおりです。

① 消費税簡易課税制度選択届出書を提出した事業者

②その基準期間※3における課税売上が5,000万円以下の課税期間

 ※3 一般的に個人事業者は前々年、法人は前々事業年度

③本則課税制度が強制※4されない課税期間

 ※4 図1-3の判定取引を行った場合には、本則課税制度が3年間強制されます

 

本則課税制度が強制される取引

図1-3 本則課税制度が強制される取引

※5 1,000万円(消費税抜)以上の固定資産、商品

※6 100万円(消費税抜)以上の固定資産


1-3 適用方法

 簡易課税制度は、簡易課税制度選択届出書を作成し、税務署へ提出することで適用を受けることができます。この届出書は国税庁のHPでダウンロードすることができます。

 簡易課税制度選択届出書について詳しくお知りになりたい方は、「税理士が解説!簡易課税制度選択届出書の書き方」をご参照ください。


1-4 会計処理

 簡易課税制度は、「課税売上に含まれる消費税」のうち一定割合を「課税仕入に含まれる消費税」とみなすため、売上側のみの集計で消費税の計算ができます。図1-4はTKCの会計ソフトを使用した場合の会計処理のイメージです。建設業の場合は、売上側の取引について事業区分3を選んで入力します。決算では事業区分3の課税売上を集計して消費税を計算することになります。

会計処理イメージ(TKCの場合)

図1-4 会計処理イメージ(TKCの場合)


2 簡易課税制度を受けないほうが良いケース

 メリットがある簡易課税制度ですが、一方で届出書を出さず簡易課税制度の適用を受けないほうが良いケースがあります。それは、みなし計算した簡易課税制度の消費税が、本則課税制度の消費税より多くなるケースです。

本則課税制度と簡易課税制度の比較(簡易課税制度が不利)

図2-1 本則課税制度と簡易課税制度の比較(簡易課税制度が不利)

 図2-1のケースでは、みなし計算する簡易課税制度より本則課税制度による消費税のほうが少なくなっています。また、簡易課税制度を適用後、最低2年間は本則課税制度に戻ることができません。

 次の条件に当てはまる場合には、本則課税制度が有利となりますので届出書を出すか再検討しましょう。

  • 過去の実際仕入率がみなし仕入率を上回る
  • 大規模な設備投資など課税仕入が多くなる取引を2年以内に控えている


3 2割特例

 簡易課税制度に似た制度として2割特例があります。2割特例は期間限定で、簡易的に「課税売上に含まれる消費税」の2割を納税とできる制度です。2割特例の内容、その適用要件、簡易課税制度との選択について見ていきましょう。


3-1 2割特例とは

 2割特例とは、「課税売上に含まれる消費税」のうち80%を「課税仕入に含まれる消費税」とみなして消費税を計算する特例です。図3-1のとおり、第3種事業から第6種事業はみなし仕入率が70%以下(80%未満)となります。つまり、第3種事業から第6種事業を営む方は、2割特例のほうが簡易課税制度より消費税の納税が少なくなります。

事業区分ごとのみなし仕入率

図3-1 事業区分ごとのみなし仕入率(国税庁HPより引用)

2割特例と簡易課税制度の比較(2割特例が有利)

図3-2 2割特例と簡易課税制度の比較(2割特例が有利)

 なお、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間の特例です。個人事業主の場合は、令和5年分から令和8年分の最大で4年間、適用を受けることができます。


3-2 適用要件

 適用要件は次のとおりです。

  • インボイス発行事業者の登録
  • 課税事業者選択届出書の提出なし(令和5年9月30日を含む課税期間のみの要件)
  • その基準期間における課税売上が1,000万円以下の課税期間

(図3-3で本則課税制度が強制される課税期間、課税期間短縮の特例の適用を受ける課税期間は除く)

本則課税制度が強制される取引

図3-3 本則課税制度が強制される取引

※5 1,000万円(消費税抜)以上の固定資産、商品

※6 100万円(消費税抜)以上の固定資産

 消費税申告の必要がなかった方が、インボイス制度の登録を機に消費税申告をする場合には、まず初年は適用要件を満たしていることになります。それ以降については、本来であれば(インボイス制度の登録と課税事業者選択届出書の提出がないものとして)消費税申告の必要がない場合には、適用要件を満たしていることとなります。


3-3 適用方法

 確定申告書に2割特例を受ける旨を記載するだけです。確定申告の都度、適用の意思表示ができます。


3-4 簡易課税制度との選択

 簡易課税制度の適用期間中であっても、2割特例の適用要件を満たす限り、2割特例を申告時に選択適用できます。適用要件を満たさないときは簡易課税制度、満たすときは2割特例、という使い方も可能です。


4 まとめ

 今回は「簡易課税制度」について書き出してみました。

 「簡易課税制度」は消費税の計算が簡易になる制度であり、事務負担の軽減が図れる一方で、最低2年間強制適用されること、事業状況により納税に有利不利が生ずることがわかりました。

 メリット

  • 事務負担の軽減
  • 納税有利(みなし仕入率>実際仕入率)

 デメリット

  • 最低2年間は強制適用
  • 納税不利(みなし仕入率<実際仕入率)


 最後までお読み頂き有難う御座いました!

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