インボイス制度が始まり、その登録をしたいけど… その前にインボイス制度って何?詳しく知りたい!
税理士が解説! インボイス制度とは
2023.11.04

 インボイス制度は、登録された事業者が発行する適格請求書を保管することで、令和5年10月1日以後も引き続き消費税の控除が認められる制度です。

 言い換えると、登録していないと買手側の取引先が消費税の控除ができず損をしてしまう制度です。

 なぜ取引先が損をするのかインボイス制度の内容から、登録するメリット・デメリットまで、詳しく説明します。

 読み終わったら、インボイス制度の全貌が理解できるはずです。







1 インボイス制度

 英語で請求書のことをInvoice(インボイス)といいます。では、令和5年10月1日より始まったインボイス制度のインボイスとは何を指すのか、前の請求書と何が違うのか、確認していきましょう。


1-1 インボイス制度とは

 インボイス制度とは、令和5年10月1日以後の取引について、適格請求書の保存を要件に支払った消費税の控除を認める制度です。適格請求書は税務署に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し登録された事業者しか発行できません。したがって、インボイス制度の導入後は登録をしていない事業者が発行する請求書では、買手側の取引先は消費税の控除ができず損をすることになります。

 なお、この登録により消費税の申告が必要になります。インボイス制度の導入後は適格請求書の有無による区分と集計が必要で負担が重くなります。区分・集計が不要となる簡易課税制度または2割特例を適用することも検討しましょう。

 簡易課税制度と2割特例について詳しくお知りになりたい方は、「税理士が解説!簡易課税制度(2割特例)とは」をご参照ください。

インボイス制度の導入前後の比較

図1-1 インボイス制度の導入前後の比較

 取引金額には一般的に消費税が含まれているため、その支払い(課税仕入)をおこなった事業者は消費税の計算で控除を行います。しかし、インボイス制度の導入後は適格請求書の受取・保存がない場合には、この控除が認められません。図1-1では、一部取引先からの適格請求書の受取・保存がないことで、控除ができず消費税の納税が10万円増加(損)しています。

 なお、適格請求書の受取・保存のない取引について全額の控除が認められなくなると、事業活動への影響が大きいため、図1-2のとおり段階的に控除が認められなくなるよう経過措置が設定されています。令和11年10月1日以降は、全額の控除が認められなくなる予定です(図1-3)。

免税事業者等が発行した請求書の取扱い(経過措置)

図1-2 免税事業者等が発行した請求書の取扱い(経過措置)

インボイス制度の導入後の比較

図1-3 インボイス制度の導入後の比較


1-2 制度の登録方法

 適格請求書発行事業者の登録申請書を作成し、税務署に提出をすることで、免税事業者の方は登録希望日から登録を受けることができます。なお、申請書の提出から通知までの期間は、国税庁HPで公表されています。令和5年10月20日時点では、書面提出の場合は提出から約1か月となっています。

 また、登録が完了すると国税庁HPで登録番号による検索が可能となります。

 適格請求書発行事業者の登録申請書について詳しくお知りになりたい方は、「税理士が解説!適格請求書発行事業者の登録申請書の書き方」をご参照ください。


1-3 制度のペナルティ

 適格請求書は、インボイス制度の登録を受けた事業者のみが発行できるため、次に該当する場合には罰則規定が適用されます。(消法57の5)

① インボイス制度の登録者以外が作成した、適格請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類

② インボイス制度の登録者が作成した、偽りの記載をした適格請求書などの適格請求書類似書類等

 これらの書類を発行した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に科されます。(消法65①四)


2 インボイス制度の登録をしない場合

 徹底して周知がされてきたインボイス制度ですが登録しないという選択肢もあります。登録の有無によるメリット・デメリット、登録しない場合の対処方法を見ていきましょう。


2-1 登録の有無のメリット・デメリット

 登録する場合としない場合のメリットとデメリットをまとめると次の図のようになります。

免税事業者のメリットとデメリット

図2-1 免税事業者のメリットとデメリット

 インボイス制度の登録により適格請求書を発行できるため、取引先から値引きの交渉をもちかけられる心配がなくなることはメリットでしょう。一方で、インボイス制度の登録により消費税の申告が必要となり事務負担が増え、また追加で納税が生じる可能性はデメリットになります。

 なお、買手側の取引先が次に該当する場合には、課税仕入の認識をしていないため損をしません。インボイス制度の登録をしなくても問題はありません。ただし、取引先への確認は難しいでしょう。

  • 一般消費者や免税事業者(消費税の申告をしていない)
  • 簡易課税制度か2割特例を適用


2-2 値下げ交渉

 インボイス制度の登録をしないと買手側の取引先が消費税の控除ができず損をします。取引先は損した分の値下げ交渉をしてくるでしょう。その際に、いくらの値下げに応じればよいか。下記を参考にしてみてください。

値下げの基準

図2-2 値下げの基準

 消費税を計算(簡易課税制度、2割特例を除く)するうえで取引先が損をする割合は次のとおりです。それぞれの期間に応じて取引価格の改定の取り交わしを行うべきでしょう。

  • 1.96%(令和5年10月1日~令和8年9月30日)
  • 4.76%(令和8年10月1日~令和11年9月30日)
  • 9.09%(令和11年10月1日~ )


2-3 独占禁止法・下請法

 値下げ交渉の際には次の独占禁止法と下請法に抵触していないかも確認すべきでしょう。

 独占禁止法においては、取引上優越した地位にある事業者が免税事業者に対して、下請法においては、親事業者が免税事業者である下請事業者に対して、次の行為をすると違反になります。

  • 「インボイス制度の登録しなければ取引を打ち切る」と一方的に通告すること
  • 「インボイス制度の登録しなければ価格を引き下げる」と一方的に通告すること

 なお、インボイス制度の登録の要請自体、取引価格の改定にあっては双方の合意があれば、違反になりません。公正取引委員会HPにインボイス制度に関する相談窓口があります。違反行為と思われる場合には相談をしましょう。


3 まとめ

 今回は「インボイス制度」について書き出してみました。

 「インボイス制度」は、令和5年10月1日以後の取引について、適格請求書の保存を要件に支払った消費税の控除を認める制度です。「インボイス制度」の導入後は登録をしていない事業者が発行する請求書では、買手側の取引先は消費税の控除ができず損をすることになります。

 また、登録は任意であり、登録しない場合でも、次のそれぞれの期間に応じた取引価格の改定を交渉すればよいことがわかりました。

  • 1.96%(令和5年10月1日~令和8年9月30日)
  • 4.76%(令和8年10月1日~令和11年9月30日)
  • 9.09%(令和11年10月1日~ )


 最後までお読み頂き有難う御座いました!

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